SEIKO インジケーター 11A

2015年の末にセイコーからこんなプレスリリースがありました

国産初の自動巻き腕時計

今では当たり前になっている自動巻きの機械式時計ですが1960年代にマジックレバー方式が一般化されるまでは手巻きが主流でした
そんな手巻きが主流だった時代の1950年代半ばにセイコーから国産初の自動巻き腕時計が発売されました

それがセイコー オートマチック 通称インジケーターです

ほどよいアンティーク感に加え現代でも特殊機構とも言えるパワーリザーブインジケーターがついています
※パワーリザーブとは時計があと何時間で止まるか表示する機構です

目を引くモデルです、ちなみに個人的にデザイン、ムーブともにツボな時計です
好みではあるのですがゼンマイを巻き上げる効率はよろしくないのでかなり手の動きが多い人以外は手巻きの補助が必要です
自動巻きと言いつつも手巻きが必要だった為にパワーリザーブを組み込む必要があったのでしょう

2015年に自動巻き発売60周年の記念モデルを発売するとウワサを聞いたときは“おっ!”と期待しましたがチガウ、ソウジャナイでしたね、復刻ではなく記念ですからね、しょうがないですね

セイコー ムーブメント比較

この時計はデザインと機能だけの時計ではありません
ムーブメントがすばらしい

国産第一号とはいいますが機械の設計はスイス製のムーブメントと同一です
設計だけ貰って生産は国内だったのか、はたまたスイスからムーブメントを輸入していたのかはわかりませんがこの時計の発売前の1953年にはスイス製で全く同じ構造のムーブメントが発売されています(完全に歯車のサイズなどまで一緒だったかは知りません)

そんな設計は輸入の完全国産ではないムーブの何がすばらしいのかというと、外観です

写真では細部まで伝えられませんがパッと見でもローターの形状、バランス言うことなしですね

インジケーターとの出会い

さて今回紹介するインジケーターの修理は自分の祖父の形見的な時計です
そんな形見的時計との出会いは数年前、祖父の遺品整理中、文字盤とケースと針だけの状態で発見されました
そう,外装だけでムーブメントがないのです
外装部品の状態が良かっただけに残念でしたが仕方がありません、あきらめて忘れることにしました

 

それから数年、その間も父がいろいろ片付け、整理していました
整頓していくと出来上がる不明機械箱、こんな感じの箱が出来上がります

2015年冬、高山に戻り半年ほどたったある日、何の気なしに不明ボックスの機械を見ているとふと目に留まるムーブメントがありました
と、いっても全部バラバラでしたので自動巻きの錘部分、ローターと言われる部品に目が行ったのです

※画像はイメージです。RICOHをSEIKOSHAと読んでください(笑)

SEIKOSHAの刻印があるのにSEIKOらしからぬ特殊な形状です
インジケーター発売60周年を前に神様が教えてくれたのか?はたまたお空の祖父がメッセージを送ってくれたのか?
天の声を聞いたのです

「それ、インジケーターの部品やで」

仮組み・部品の確認

このコンテナに全部ある。
確信がありましたのでコンテナを手に修理部屋へ


部品を仮組みしていきます

 

部品の有無の確認は仮組みが一番確実ですね

輪列は問題無し
石の割れもありません
テンシンの折れ は想定内です(テンシンとは時計の中でブルンブルン回ってるアレの芯、軸の事です)
しかしインジケーターとしての致命的な部品が折れていました

インジケーター部品別作

パワーリザーブをクラッチ?を使って制御していますがそのクラッチの圧を制御する部品が折れています

三枚重ねの歯車にバネで圧をかけて適度に負荷がかかるとスリップする構造

 

制御するなんて書くと複雑そうですが要はバネ性のある歯車抑え、軸受けです

現物はこんな感じ

シンプルですね、そしてこの部品、最高に折れやすそうな顔してます、折れてますが
部品の厚みがコピー用紙、普通紙くらいしかないのです

おそらく祖父もこの部品を何とかしようと思って、思っていたままなのでしょう

60年前の部品があるとも思いませんしこのムーブメントの品番であるcal.11aというのが重複キャリバーなのです
11Aの部品を…と探してもレディースの時計の部品しかでてきません、ようするにただでさえないのに加えて探しにくいというおまけつきなのです
というわけで、作りましょう


材料はクロックのゼンマイを使います

そのままでは硬すぎて使えないので焼き戻ししてから使います

切って穴開けてリーマーで穴の大きさを合わせて…

できました

オリジナルより厚くしました
オリジナルと同じくらいまで薄くして強度を出すような技術はありませんし加工難易度が一気に上がるので…
とりあえず機能回復を第一にしました

テンシン別作

これさえできたらあとはテンシンを作るだけです
テンシン折れはまあ、よくある故障ですね

このテンシンという部品一秒間に270度くらいの往復回転運動を2.5往復もするくせに太さがΦ0.09㎜しかありません
そんな折れそうなものをいろんな部品といっしょくたにコンテナに入れられて折れてないはずがない

この部品も出てくるとは思いませんから作りましょう

時計旋盤というちょっと特殊?な旋盤を使ってフリーハンドで削り出します

これがその旋盤

いつも通り過程の写真が少ないのですがとりあえず完成です

※右が折れたてんしんです

写真のふちが丸いのは双眼実体顕微鏡で見ているからです
長さがなんと約2.6㎜、先端はΦ0.09㎜
ルーペだけで見ようなんて至難のワザですね

テンシンにテンワやらなんやらを組み付けて先端を磨いて片重りをとって完成です

※別の時計のテンシン入れ替え画像です

ネジ折れこみ修理

後はいつもの分解掃除…と思いきやもう一つありました
ネジの折れ込みです
機械を固定するネジが折れ込んでしまっていますね

頑張って抜きます

抜けました、細目とかではなくてよくあるメートルネジなのですがサイズでいうとM0.8です

抜けたら次は折れてないネジが必要です
ネジの頭のサイズが合わないとこれまた旋盤で作らなきゃいけないのですがラッキー、ストックがありました

※作らずにすみました

分解掃除・歩度調整

今度こそ分解掃除して歩度調整です

この時代の時計はほとんど可動ヒゲもちではないのでヒゲ玉というヒゲゼンマイの中心を回して片振りをとっていきます
(片振りとは時計のチクタク音の間隔です。均一にする必要があります。音のずれをミリ秒 ms で表します)
中古アンティーク時計の販売サイトなんか見ていると「片振りは5.0msです、この時代のものとしてはいい方です」なんて書いてありますが片振りは製造された年代関係ありません、調整するかしないかです
1.0ms以下にはした方がいいです
ヒゲ玉を動かす時にヒゲが残念なことになるリスクはありますが…

 

歩度調整して針を取り付けてケーシングして完成です

インジケーターも調子よく動いています

精度もかなりいいですね、60年前のわりにその辺の現行の機械式より時間があいます
この時代の時計は防水性は皆無ですので普段使いはちょっと厳しいですね

由来も祖父の物ということを思うと普段使いしてめっきがはげていくのを見るのも悲しいものがあります
こういう時計は並べておくかたまに気が向いたときにしかつけられない時計ですね
つけてる最中は汗もかかないように注意が必要です

錆びるものと割り切って気にせずに使えばいいですが…お勧めはしません

 

修理というかレストアのような内容でした
思い入れのある時計は直して長く大事に使いたいですね