LONGINES 自社キャリバーの分解掃除
100年以上の歴史を持つロンジン、自社でムーブメントの設計製造が可能だった有名時計メーカーです。
大きなシェアを誇っていた同社でしたが時代の流れ、クオーツショックにより自社でのムーブメントの設計製造は休止状態となりました。
※クオーツショック:1970年ころ、クオーツ時計の出現によりスイスの時計業界全体が経営不振に陥った出来事です。
ロンジンの場合は経営の悪化等によりこの機械のパテントを1990年ころレマニア社に売却したようです。
(レマニア社とは時計機械、ムーブメントの製造専門メーカーです)
目次
LONGINES キャリバー:L994
そんなロンジンが1970年後半に自社開発した最後のムーブメントです。
機械の設計も綺麗で薄型自動巻、高級機としての要件を満たしています。
この機械は現在も某高級ブランドでテンプなどをモディファイして搭載されています。
今回はそんなロンジンのキャリバーL994の分解掃除と一部不具合の解消です。
裏蓋を開けた中身はこちら。
仕上げがきれいです。(写真は修理後のものです)
分解
分解していきます。
ゼンマイが二つ搭載されています。
ツインバレルというやつです。
ツインバレルですがこの時計の公称パワーリザーブ(最大動作持続時間)は40時間です。
最近の機械のツインバレルはパワーリザーブを伸ばす目的で組み込まれますがこの時計の場合はトルクの均質化のためのツインバレルです。
ゼンマイトルクの均質化は精度を向上させます。
受けなしの輪列です。
秒針ありの3針モデルも同一機械でありますがこれは2針のモデルですので少し部品数が少ないです。
自動巻き機構に手巻きの巻き上げ機構、計時機構。3つの輪列が同一面上に設計されていて綺麗です。
高級機の風格がありますね。超高級メーカーに採用されているのもうなずけます。
分解手順的に前後しますがこの機械、巻き真の止め方がちょっと特殊です。
レバーを持ち上げて引き抜きます。
巻き真を外すときに毎回思うのですが金属疲労を起こしているハズレを引くってときはあるよな、と。
そんな日が来ないことを祈るばかりです。
不具合:手巻きの時に空回りする
手動によるゼンマイの巻き上げに少し不具合があります。
具体的にはゼンマイのトルクが上がってくると滑ってゼンマイが巻けなくなるのです。
ゆっくりと巻いてやれば巻き上げできないわけではないので時計の癖として割り切って使ってもらえれば使えないことはないのですが…。
手巻きで滑る原因
時計のゼンマイの手巻き機構はほとんどがラチェット構造で片方向に巻いた時だけゼンマイが巻きあがるようになっています。
油が切れた状態でラチェットの逆回転を繰り返すと…
こんな風にラチェットの角が摩耗してきます。
右側が交換品の新品部品
この部品がそこそこな¥するんです。
角が落ちているのがこんな風に歯車が逃げていく原因です。
①矢印方向に回っていきます。
②浮いてきました。
③浮き上がりが止まらない!!
④歯の噛み合いが解けてしまいました。この時に手に歯車の滑りを感じます。
比較動画を撮ってみました
手巻きする際の注意
この手巻き時に滑る不具合、この時計特有の不良ではないのです。
ゼンマイを手で巻きあげる時に素早く逆回転もさせながらシュッシュッと巻き上げていませんか?
何回も繰り返されるうちにこんな風に少しずつ歯先は摩耗していきます。
手巻きする際はゆっくりと巻き上げてあげた方が時計には優しいです。
アンティークだと部品の入手が不可能な場合もありますのでなおのこと注意が必要ですね。
今回は部品が手に入ったので交換で不具合は解消できました。
修理完了
今回は運よく部品が手に入り交換にて対応しました。
部品代は時価となります。
アンティーク時計と割り切って、ゆっくりと巻き上げてご使用いただく分には問題ない不具合でしたのでお客様のご要望によっては交換しない場合もあります。