19 SEIKO/19セイコー 秒針停止後に動き出さない原因

19セイコー

1930年ころからセイコーで作られていた鉄道時計。
鉄道事故を防ぐため鉄道員の携帯する時計の精確な同期をとるために秒針まで合わせることができる機能が付いています。

こちらのお預かりの時計、ハック機能(秒針停止)を使うとそのまま止まってしまう。
リューズを元に戻しても動き出さないという不具合で修理を承りました。
動き出さないが振ると動くとのこと。
原因はなんでしょう?
原因の特定と修理を行いました。

時計のお預かり

お預かりして原因の特定にはまず歩度測定を行います。

右上の数字 片振りが6.9ミリ秒、かなり悪いです。

片振りとは?

機械式時計の特徴でもある時計のコチコチ音、これは機械の内部にあるアンクルという部品が出している音です。

入爪の時のコチと出爪の時のコチの音があります。
この2つの音の間隔がどれだけ違うかを現しています。
二つの音の間隔が6.9ミリ秒違うと言うことを現しています。

テンプとアンクル間で動力伝達を行う振り石の位置がどちらかに偏っているとずれます。

往復運動を行うテンプ、往復運動の中心位置にない振り石。

これでは両方の間隔がずれてしまいます。

原因は片振り 大

今回の不具合、この片振りの調整不足が原因なのですが19セイコー 特有の現象とも言えるのです。
音の間隔が違うと言う意味とこの機械の特有の原因になる理由を紹介していきます。

秒針停止機能

まずハック機能、秒針停止をどのように行うか見てみます。

一般的なハック機能

先に多くの時計のハック機能を見てみます。
リューズの操作で飛び出すレバーがテンプ(心臓部)を押さえます。

テンプが動いている途中で止めるのでレバーが離れればある程度テンプが動いた上で動作を再開します。

動作範囲外にあっても動き出すことが可能です。
片振りの大きい状態でテンプの死点で止める事が出来れば再起動不良になりますがそのタイミングで止める可能性は低いのでほぼ問題ありません。

19セイコーのハック機能

こちらは19セイコーのハック機能です。
この機械の停止機能はちょっとユニークです。
秒針がつく歯車にピンが立ててあります。

リューズの操作にともなってレバーが伸びて歯車についたピンの軌道を阻みます。
秒針の動作は妨げられ時計の動力の伝達はカットされます。
テンプ(心臓部)は動力が伝わらない状態で停止します。
秒針が停止します。

この停止状態の時、テンプに動力を伝える振り石は起動するための動作の範囲外にあります。

※まさにこの状態で停止します。どうやってもテンプに力が加えられない…。

再起動後、アンクルまで動力が伝わっても動作範囲外に振り石があるため自力で再起動ができません。
時計を振るなどして動作範囲に振り石を動かしてやる必要があります。

修理方法

原因は分かりました。
この片振りを直せばいいのですがどうしたらいいのかというと…。

テンプへの動力を伝える振り石の位置を中心に動かす必要があります。

不良状態のテンプを固定するヒゲ玉を回して振り石の位置を変えます。

少しの違いですが振り石の位置が違っています。

何度かトライアンドエラーを繰り返して0.7ミリ秒まで来ました。
ズレを無視できる誤差です。
秒針ハック後でもしっかりと動き出します。

あとは通常通りの分解掃除を行い修理完了です。

手軽に調整可能になりました

最近の時計は可動ヒゲ持ちと言うものがついていて手軽に片振りを修正できるようになっています。

この部分を動かすことでテンプの振り石の位置を任意に動かすことができます。

しかし少し古いものになると今回の19セイコーのようにヒゲ玉を直接回して根本の部分で修正する必要があります。
1ミリでも動いてはいけない方向に手が動いて渦巻を壊してしまうとそれなりに大変なことになるので片振り修正はしばしば無視されます。

ハック機能がないものなら片振りが大きくても目に見える不具合は起きにくいですが特殊な機構だとこんな不具合が出てきます。
この機械以外でこの停止機能が使われていないのもこれが原因かもしれませんね。
その機械にあった必要な修理を手掛けていきたいです。