Audemars Piguet 分解掃除 -歯車が1つ増えることで出る影響-

更新にずいぶん間が空いてしまいました。
分解掃除をしていると設計をカジったこともないのですがエラそうになぜこんな設計に…なんて思うこともあります。
設計は僕には想像がつかないような深い理由があるのでしょうが…ちょっと知ったかぶって思ったことを書いてみました。

 

AP オーデマピゲの手巻き式ムーブメントです。
中三針、真ん中に秒針があるものではなく6時位置に秒針がつくスモールセコンドのモデルです。
機械の設計的には秒針を途中の歯車の同軸につけるだけなので最もシンプルな設計になります。

文字盤側の分解

ムーブメントの仕上げがキレイですね。

突然ですが文字板の下です。

1枚の受けでおおわれています。

受けを1枚外すと…

あれ?思ってたんと違う。
なんか歯車が2つありますね。
1つは反対側の歯車の軸とかしめられていてもう1つは秒針がついていた歯車です。
なぜこんな複層にする必要があったのでしょう??
通常のスモールセコンドならこの赤丸のかしめられている歯車に直接秒針をつければいいだけなのに。

輪列側の分解

輪列側を分解していきます。

テンプと受けを外したところ


なんかへんな歯車がある…

さらに香箱受けを外して裏側です。

変な歯車発見


へんな歯車の正体はコレです。歯車軸がボールベアリングになっています。

ボール軸受

ボール軸受は時計では自動巻のローター軸には一般的に使われていますね。
しかし時計の動作に関わる歯車に使われているのはあまり見たことがありません。
通常のルビー軸受よりも回転抵抗や摩耗が少ないですが超小型化が難しいようです。
日本の浅岡肇さんが軸受にボールベアリングを使用した時計を発表していましたが、こちらが先駆けてやっていたようです。
さすがスイス。
小型化できていないので一箇所にしか使えないようですが…
まあ昔の設計のようですのでその時代に思いついて実行していたというのがすごいですね!

文字盤裏 ナゾの設計の原因

このベアリング歯車が入ることで何が起きるかというと…

1枚歯車が多くなるのです。カナと組み合わされているわけではなく遊び歯車として使われているだけです。
平歯車が1枚、間に入ることによって歯車の回転方向が変わります。
そのため通常のスモールセコンドと同じ構造にすると秒針だけ逆回転する時計になってしまうのです。

そのためのこの文字板裏の謎歯車だったようです。

1枚足すと逆回転するならもう一枚足せば正回転に戻るわけです。
なるほどスッキリしました。

新たな謎が…

スッキリはしたのですが新たな謎が出てきます。

そうです。回転軸受の存在意義が謎になってしまいました。

ここにわざわざ一枚歯車を足すことでさらに2枚歯車を追加する必要が出てきたわけです。

軸受で抵抗を減らした意味がないんじゃないかとか…

ただ単に時計の内部に回転軸受を組み込みたかっただけなんじゃないかとか…

偉そうに講釈たれました

エラそうに書いたのですが機械の設計は難しくついていけません。
長々と書いといて間違えてたら恥ずかしいです><
それにきっと僕の頭では理解できない高度な計算の元にこの設計ができたのでしょう。

それに時計は合理性ばかりではありません。書いていて気がつきました。
こんなこと言い出したらこんなツールビヨンもいらないですよね。

機械の美観に関して唯一無二の存在となっている、ということにして考えるのをやめようと思います。