ロレックス バブルバック 分解掃除と部品の交換

アンティークのロレックス
ゼンマイを巻いてもすぐ止まる、
他店にて分解掃除を依頼したところ部品が破損していて修理不可といわれた、何とかならないかとご依頼いただきました。

モデルはこちら。

ロレックスの片方向巻き上げ式自動巻き 通称 バブルバック
いくつかモデルがありますが中、後期型になるセミバブルバックです。

不具合を探す

故障の原因を探します。
破損した部品の画像を見せてもらっていたので見当はついていますが他にも不具合があるかもしれません。

故障診断時のまず第一手はリューズ操作を行う、ですね。

リューズ操作で分かる事

ねじ込みを解除します。ネジ山はまだ残っているようです。
ゼンマイを巻いてみると…滑ります。これはゼンマイを巻けていない時の感触です。
ゼンマイが巻けて動くようなら測定器にかけますが不動ですので次の段階に進みます。

リューズを一段引いて時間合わせの操作は問題なさそうです。

バブルバック 内部の不具合

次に裏蓋を開けて機械を見ていきます。

自動巻き機構が動作しているか確認します。
ローターを回してゼンマイが巻きあがるか調べます。

自動巻きユニットの歯車が動きません。手巻きとは関係ない部分なのでどうやら自動巻き機構もいけない感じです。

原因を探す/直す

順番に不具合を確認していきます。

自動巻き巻き上げ機構

一番上にある自動巻きユニットからです。

ユニット裏側です。逆回転防止の爪を抑えるバネが外れています。
壊れるくらいの衝撃がないと外れない部分なのでおそらく前の修理技術者がバネをかけ忘れただけです。

バネが外れても歯車は動くはずなので原因は他にあるはずです。

ユニットのフタを外しました。

真ん中の手裏剣、爪の起き上がりが浅い。
ラチェットのかかりが浅くて空回りしているのが原因でした。

原因の部品、3か所の爪がラチェットにかかり片方向の回転のみを動力に変換します。

バネが折れたり大きく摩耗しているわけではないので爪の部分を起こしてカカリを強くします。

汚れがひどいわけではないのでカカリを強くした状態で正しく動作するか確認します。
写真はありませんがローターの回転がゼンマイを巻き上げる力に変換されるようになりました。

これで自動巻きユニットの不具合はOKです。

手巻きで滑る件

次はお預かりの段階で聞いている部品の破損。
ゼンマイが巻けずに滑る不具合の原因です。


※一度外したラチェットバネを撮影用につけなおした写真です。取り付け方向が逆でしたね…。分解時に向きはあっていました。

破片の写真を頂いていましたのでこの辺は完全に想定内です。
分かるでしょうか?一般的(バブルバックの角穴は丸穴なのです)に言う角穴車の上の部分です。

爪が折れていますね。本来は上下各2枚づつの爪でゼンマイのトルクを受け止めるはずが1枚爪が足りないのでトルクを受け止めきれずに滑ってしまうのが原因でした。

蛇足

要らない情報ですが上の写真のネジの回り、何かが滑った跡があります。

中心から回転して広がる跡、これはゼンマイを開放するときに中心のマイナスネジにドライバーをかけて開放して滑った跡ですね。
弾かれたドライバーの先にはきっと爪があったのでしょう。これが原因で爪が折れたか曲がったか…。
こういう溝の浅いタイプはリューズを使ってほどいた方が安全です。

どの段階でこうなったかは謎です。

部品を交換する

余計なことを書きましたが、アンティーク品の修理をしていて前の修理をした人と会話ができる一瞬でもあります。

さて肝心な部品の交換です。

70年ほど前の時計ですので日本ロレックスでも修理受付対応外となっています。
交換部品がないからメーカーも修理を受け付けていないわけですね。

バブルバックの純正のパッケージ入り新品交換部品は見たことがありません。
当時どんなパッケージに入っていたのでしょう。一度見てみたいものです。

このラチェットバネの純正新品は幻ですが社外品新品なら少量ですが入手可能です。

純正と比べると角が甘いとか仕上げ(鏡面)が甘いなどは社外品として目をつぶるしかありません。
動かせるようになる部品が手に入るだけ幸いです。

この部品を組み込んで動作確認をします。
汚れもひどくありません、歩度測定機で確認すると少し振りが悪いだけでテンプやひげには問題がなさそうです。

分解掃除

不具合が治ったので分解掃除を行います。
各部品を外して粗洗浄をして洗浄かごに入れていきます。

回転洗浄、超音波洗浄後に注油組み立てを行います。

ラチェット部分にさす油、最近は香箱のスリップに使うモリブデン無しのものを使っています。
オイリングチャートも見たことがありませんので規定でなんの油を注していたのか…当時を知る技術者にお話しを聞いてみたいものです。

ローター止めネジの緩み止めネジがなかったので加工して入れます。

巻き上げも十分、以上で修理完了です。

機能はばっちりですがアンティークです

70年前の時計にしては実用に耐えうる精度が出ています。

クロノメーターをとっているので新品当時はさらに高精度だったようです。
おまけに十分な防水性能も持っていますから現代で全く同じ設計で出しても現行品に匹敵する実用時計として存在感を出すことでしょう。

 

車で考えるとすごいですね。
70年前の車をまともに使えるようにするには趣味に使えるケタを超える金額が必要になるのではないでしょうか?
割とお値打ちに楽しめる骨董趣味の時計、そのお手伝いをできればと思います。

巻き上げも精度も十分でもやはりアンティークです。
頻繁に使うようであれば小まめ(3年程度)に分解掃除をお願いします。
サビが見られませんでしたのでおそらく一度も水入りがない時計です。
アンティークの常ですが水にはお気を付けください。

修理の費用

今までもったいぶって ASK のみとなっていました当店の標準修理料金です。

アンティーク(現行以外)ロレックス 分解掃除 基本料金 ¥30,000+税
今回のメイン 香箱ラチェットバネ社外品 部品代交換代 ¥12,000+税(時価)

もったいぶって と書きましたがアンティークは機械の状態がピンからキリまであります。
そのため一概に言えないのでASKとさせていただいていました。

あくまで不具合などの修理も加味する前の金額とお考え下さい。
お気軽に お問合せ  より メール、LINE、問い合わせフォームで見積もり連絡いただければ幸いです。