jaeger lecourtle ジャガールクルト メモボックス・リストアラーム cal.814

腕時計のアラーム機能、G-SHOCKなどで一般的な機能となっていますね。
実は電子制御ではなく機械式でもアラーム機能はあるのです。

アラーム付き腕時計といえばjaeger lecoultreのメモボックス。
ですが、北米向けはリストアラームの名前で発売されていた。らしいです。

キャリバーは814

今回お預かりした時計は’jaegar lecoultre’表記ではなく’lecoultre’表記のみです。
欧州ではジャガールクルト表記で販売していましたが北米では1932~1985年までルクルト表記での販売だったらしいです。
今ウィキペディアで見ました。へぇ~、勉強になります。
てっきり初期がルクルトでジャガーさんとくっついてジャガールクルトになったと思っていました。
間違いではなかったようですが創業当初の1907年の大昔の話だったようです。

アラームの仕組み

アラームの制御、複雑そうですが仕組みは割とシンプルです。

機械式の目覚ましと仕組みは一緒です。
アラームのなる時間を設定するディスク(赤丸)と実時間を表示する歯車が縦方向に一か所だけかみ合うようになっています。
噛み合いの分だけ二枚の歯車の隙間は小さくなり、その隙間に連動するレバー(緑丸)が動きます。
そのレバーはアラームのハンマーを止めていてそのロックが外れてアラームが鳴る、といった感じ。

 

赤丸の部分がハンマーになっています。
任意の時間になると裏蓋についた軸を叩いて振動と音で時間をお知らせします。

こんなに小さいものをたたく音で気が付くのか?と思うかもしれませんが大きな音が出ます。
時と場合によってはちょっと怒られそうなレベルの大きさです。

分解と洗浄

分解していきます

ゼンマイは二つ入っています。
時計の動作用が下のゼンマイで上はアラームのゴング用のゼンマイです。

星形の歯車がハンマーを往復運動させます。
星形歯車の下に見えるのがアラーム制御用のレバー。

洗浄して組みあがりました。

洗って組んで終わりではありません
歩度調整が必要です

歩度調整

組みあがったら歩度調整が必要です。
測定機にかけてみましょう。


片振りもなしでいい感じ…線が真っすぐなら一日の誤差がゼロ、上に行けばプラス・進み、下はその逆です。

グラフから分かる事

いい感じ、と見せかけてしばらくすると…急上昇↑

 

あっという間にこんなグラフに…
急上昇↑、ちょっとすると安定→…これを繰り返しています。

これは振り当たりを起こしているときのグラフです。

時計がものすごく進む、といった症状はこの振り当たりが原因のことがあります。

振り当たりとは?

振り当たりとは何でしょう?
テンプという時計の精度を決める肝の部品、往復回転運動をしています。

往復回転運動が大きくなりすぎると360度、一回転を超えてしまいます。
構造上一回転以上はできません。自由振動している途中で回転は止められて強制的に逆回転が始まります。
振動周期は短くなってしまい、結果としてものすごく進む、といった症状を引き起こします。

どれだけの量を回転運動しているかを振り角と言って歩度測定器に角度で表示されます。

上の写真では305度と出ていますが正しい拘束角が分かりませんし、たとえ正しい拘束角が分かってもこれまでに削られている可能性もあります。
あくまで目安です。
実際に305度程度の振りでは振り当たりは起こりません。

この振り当たりを直さないことには実用できません。
静置していても振り当たりするレベルですから重症です。

振り落ちさせる

本来テンプの振りがいいというのは喜ばしいことなのですが振り当たりを起こしいている場合は強制的に振りを落としてやる必要があります。

振りを落としてやるためにテンプに動力を伝えるアンクルという部品を調整します。

アンクルという部品周りの動作を簡単に書くと 落下→停止解除→衝撃→落下→停止解除→… を繰り返します。
正しく、細かく書くととっても長くなるので一部略

落下の部分ではテンプは自由運動しています。
停止解除の時にテンプの動きを止めようとする力が加わります。
衝撃でテンプに次の往復運動を与える動力を伝えます。

振りを落とすためには停止解除の時に必要な力の量を増やしてやります。
抵抗が大きくなった分、振り落ちします。

爪石調整

実際にはアンクルの爪石・四角柱の赤色の石(ルビー)を出すことで停止時の噛み合いを増やして抵抗を大きくしてやります。

爪石を少し出したくらいでは振り当たりは止められませんでした。
限界まで出しました。これ以上は時計が止まる恐れがあります。
これでダメなら土手ピンに手を出す必要があります。
曲げたり削ったりは最後の手段です。

アンクル爪石調整後

調整が終わりました。
結果として爪石調整だけでは振りを落としきれませんでした。
最終的には土手ピンの幅を少し広げて現状の限界を超えてさらに爪石を出しました。

時計を振ったり、通常使用における衝撃でも振り当たりしない程度には振り落ちさせることができました。
もちろん静置しても振り当たりはしません。

測定機に振り角225度と出ていますが実測は270度くらい、ちょうどいいくらいかと思います。
土手ピンを広げた量が左右完全に同量ではなかったようで片振りが出ました。
0.7ミリ秒、許容範囲ですのでこれ以上の調整は不要でしょう。

修理完了

古い時計ですが十分いい精度が出ました。

ルクルトは振り当たりしやすいとはよく言いますがここまで振るのは初めてでした。
いったい新品の状態ではどうなっていたのでしょう。
今より油が重かったのか…工作精度が悪かったのが長年の使用で各部品に当たりがでて振り当たりを起こしているのか…?
デッドストックがあっても当時の油は酸化しているでしょうし当時のルクルトの技術者に聞く以外には知る由もありません。

汚れを落としてやれば内部にサビもなくいい状態の機械でした。
まだまだ現役で行けそうですがアンティークです。水には気を付けてくださいね。